栃木県小山市をホームに今季から新規参入するEDEN.EXE(エデン エグゼ)には、明確な特徴がある。それはロスター8人のうち、ひとりの外国籍選手こそ1998年生まれだが、5人が2000年生まれ。残りのふたりは2001年生まれという、非常に若いメンバー構成であることだ。これはもちろん、偶然や成り行きでそうなったものではない。自身も2000年生まれである春山歩夢オーナーが、明確な意思を持ってチームを編成した。

「今、3x3.EXE PREMIERを研究していて、これは今後の戦略的な話ではあります。リーグ内は20代後半から30代の選手がやや多くて、30代前後で経験がある選手に勝つには、まずは体力で勝たないといけない。僕らのロスターは3x3の経験がない選手ばかりなので、最初はどうしても経験を積む必要があると思います。でも逆に言えば、吸収できるものがかなり多いことでもある。それを吸収できれば今後、長いスパンで上位をねらえるのではないかと。それで、できるだけ大学を卒業して間も無くて、まだ体も元気な選手をピックアップしました。3年くらいのスパンで見ていまして、3年後には本気で日本一を目指せるようなチームになることを目標にしています。なので、その年代に絞って集めました」

#13 近藤 虎ノ介選手©EDEN.EXE
#61 鈴木 雅之選手©EDEN.EXE

ただ単純に年齢だけに、こだわったわけではない。獲得した選手は、関東圏の強豪大学で実績を残した者たちが揃う。

「5人制でその人が持っているパフォーマンスを発揮できている選手でも、どうしても3x3に合う・合わないがあると思っていたんです。5人制なら個人のスキルが多少劣っても、頭を使ってチームを生かすようなプレーをする選手もいます。でも僕たちはまず個人の能力があって、そのなかでも大学ではトップチームでやっていた選手たちに声をかけて、メンバーを集めていきました。同世代なのでコミュニケーションは当たり前に取れるでしょうし、そんな選手たちを3x3に染めていけば活躍できるだろう。そういったことも考えて、能力面も含めて選手は厳選しましたね」

春山オーナーをEDEN.EXE結成へと向かわせた大きな思いのひとつは、3x3.EXE PREMIERでも有数の強豪である、あのチームの存在。

3x3.EXE PREMIER 宇都宮ラウンド

「地元が栃木県で、自分自身も高校までプレーヤーだったので、5人制の宇都宮ブレックスの試合はたまに見に行っていたんです。ブレックスさんに3x3のUTSUNOMIYA BREX.EXEがあることは知っていて、栃木県で行われた3x3.EXE PREMIERの大会を見に行きました。見ていると、3x3のほうが楽しそうだなと思ったんです。それからリーグのホームページを覗いたりして、自分たちでも3x3のチームを作れるんだと知ったことがきっかけでした」

5人制と比較してチームの運営予算などが低額に抑えられるのが、3x3.EXE PREMIERの特徴のひとつ。

「リーグからも出されているように、個人でもチームが持てるような運営形態やリーグの仕組みなどを自分のなかで考えていって、3x3でプロを名乗れるのはいいなと思いました。UTSUNOMIYA BREX.EXEさんと戦えることも含めて、3x3.EXE PREMIERに入れるチームを作ろうということが、現実的な目標になってきたんです。やがてUTSUNOMIYA BREX.EXEさんを超えたいという夢も頭をもたげてきて、そういう面でも面白いなと」

春山オーナーの地元は、チームのホームである栃木県小山市。ここをホームタウンとすることは必然でありながら、若くして聡明な彼だからこその計算もある。

「栃木県じゃない場所で発足させても良かったのですが、5人制も3x3も盛り上がっているブレックスさんがいる栃木県だったら真似できることも多いだろうという考えもありました。それに栃木の人に、UTSUNOMIYA BREX.EXEさんとEDEN.EXEの両方のファンになってもらうのも悪いことではないと思うんですよ」

UTSUNOMIYA BREX.EXEの存在もあり、栃木県は国内でも3x3の熱が高い地域のひとつ。

「既存のファンが多い栃木県で立ち上げたら、UTSUNOMIYA BREX.EXEさんと共有のファンを得られるんじゃないかということも考ました。僕たちにとってもUTSUNOMIYA BREX.EXEさんは、もっとも超えたい相手とターゲットにしているので、より研究しやすい環境でもあります。記者会見なんかでもUTSUNOMIYA BREX.EXEさんを超えたいとアピールしていまして、まずはそれをいちばんの目標にしています」

いくら予算が低額に抑えられるとはいえ、23歳の若者にプロチームの運営ができるのかという疑問もあるだろう。だが春山オーナーは前職では建築士として、宇都宮ライトレールに関わる大きなプロジェクトに携わったほどの優秀な人物。

「受験資格を得た1年に建築士の資格がすぐに取れたこともあって、前職でそういう大きなプロジェクトの一員になれました。会社としては若い僕に実績を積ませるために抜擢した面もあったと思いますが、そのプロジェクトを完遂して、そこで達成感を先に得てしまったんですよね」

そのまま仕事を続けていれば、安定した生活が望めただろう。だが、それを由としなかった。彼のなかにあるフロンティア・スピリットのようなものが、安定を拒んだ。

2月24日宇都宮市内で開催された記者会見の様子©EDEN.EXE

「そうですね。僕もそう思いますし、安定は大事だとわかっていました。でもその一方でなにかにチャレンジする、なにかを追いかけることが好きな性格なんです。あのときの仕事はゴールが見えてきたというか、このまま進めば安定はするだろうけど、それでいいのかと。そうするうちに、まったくやったことがないことチャレンジしようという思いが膨らんできました。だったら建築はいったん置いておいて、自分の本当にやりたいことをやろう。それで、プロチームを立ち上げることにしたんです」

EXE.EDENを立ち上げたのと並行して起業し、バスケスクールや“選手をキレイにする”とのコンセプトから始まった美容サロンを立ち上げた。さらにはスポンサー企業と手を組んで建築関係にも乗り出そうとし、そこで得た収益はチーム運営にも充てられるという。

「3x3をやりつつ、事業でも徐々に資金を稼げるようになってきました。スポンサーさんも僕のように若い人たちが活動しているからということで、多くの企業さんがついてくださっています。チームの移動費などはスポンサーさんからいただいた資金だけでも回せるくらい、協賛金をいただいていますね。現状はそのあたりも少しずつ、安定化し始めています」

競技面では強豪のUTSUNOMIYA BREX.EXEを超えることが目標である一方、EDEN.EXEとしてはチーム名に表されるように関わる人々に夢を与え、楽園のような存在になることも理念のひとつ。

3月10日 HORIEXPO 2024 TOCHIGIでのイベントの様子©EDEN.EXE

「僕たちとしてはチーム名にあるとおりに、3x3を通じて自分たちが作り上げるものが楽園になるようなイメージをしています。拠点は試合やイベントなどいろいろとありますが、そういうところに人が集まりやすくて、プロ選手がファンと交流しやすい環境を整え、3x3から始まる楽園のようなコミュニティを作りたい。それが、理念のひとつにあります」

若い自分たちより、さらに下の世代に夢を届けるのも、果たすべきことだとだと胸に刻む。

子どもたちに指導するオーナー春山氏©EDEN.EXE
クリニックの様子©EDEN.EXE

「まだ若い選手たちが下積みを重ねて、自分も起業家としてそうですが、若い人たちが頑張ればいい結果が得られるんだと。とくにスクール生の子どもたちにも、同じ夢を与えられたらと思うんです。僕らは夢を与えるチームだということを名乗るようにしていまして、そんな話はスポンサーさんにもよくしていますね」

3年後に日本の頂点を目指す2000年生まれが中心のチームは、戦い方にもデジタルネイティヴの若者ゆえのテクノロジーを導入する。

「スポンサーさんでそれを仕事としてされている方がいまして、戦略面でAIを導入しようとしているんです。AIに動画などを読み込ませて戦略を考えやすいように文字に起こしてもらったり、そういう最先端の技術を活用しつつ、既存のチームにはなかったであろう環境が整いつつあります。数値などに表れると、動画を見て検討しているのとは違う知見が得られれます。それを選手が共有できているので、そこが強みになればと思っています」

春山オーナーとEDEN.EXEの選手ら2000年生まれは、“Z世代”などとひと括りにされることもあるが、彼らは世間が揶揄して表現するそれとは違う。EDEN.EXEが3x3.EXE PREMIERに今の感性を突き刺して、世代交替の波を巻き起こす。いや、革命の嵐を吹き荒らすかもしれない。

(Text by カワサキマサシ)

TEAM information

Team:EDEN.EXE(エデン エグゼ)
Category:MEN
Hometown:栃木県小山市
Since:2024