町おこしや人材育成など、3x3.EXE PREMIERに名を連ねる各チームは、それぞれに参戦目的を掲げている。そのなかで今季から新規参戦するADDELM ELEMENTS.EXE(アドエルム エレメンツ エグゼ)のそれは、なかなかに興味深いものだ。

運営母体となるAddElm TECHNOLOGY株式会社(以下AddElm社)の主事業は、機能性を持たせたスポーツテクノロジーの開発・販売。同社の事業内容について、杉本健オーナーが解説する。

「弊社は基本的にはスポーツテックカンパニーとして、主には糸と原料の開発を行っています。そのベースになるのが、セカンドジェネレーションファブリックと定義づけられている次世代の機能素材。これはいわゆる通常の機能素材ではなく、鉱石を配合した各種の素材を人の体に合わせたらどう反応が出るかを研究して、そこから開発した糸を製品として各メーカーさんに供給しています。もともとスポーツテックをやっている会社なので、スポーツブランドの側面もありながら、原料開発とパフォーマンスの研究を同時に行っています」

吸水速乾や抗菌防臭などの機能を、生地に持たせたものがファーストジェネレーション(第1世代)。一方でセカンドジェネレーション(第2世代)とはAddElm社のように、人体生理学、心理学、脳科学をもとに開発された素材、または人体生理実験を行ってその影響を評価した素材のことを指す。そう、AddElm社は自社製品の研究・開発を主題のひとつとして、参戦に至ったのである。

「私は、人の体を使った研究をやっているんです。人体生理実験もそうですし、筋肉やフィジカルに関してもいろんな環境を使って、自分たちの製品がそれにどうアプローチできるのかであったり、コンディショニングにどのように作用するのかなどの研究を継続的に行っています。なので自分たちでチームを立ち上げて3x3.EXE PREMIERに参戦すれば、自社のインナーやウエアを使うことで、選手にどんな変化が現れるか。そうしたデータが取れるという面も、正直に言ってありますね」

3x3は東京オリンピックで正式競技に採用されてより注目度が高まったこともあり、ひところよりリーグや大会の数が増えた。そんななかから、なぜ3x3.EXE PREMIERを選んだのか。

「より、本質だからです。ストリートのカルチャーだけで見ていくと、どうしてもエンタメの部分が強くなりすぎてしまうところがあります。アスリートという観点も併用し、そこを詰めていくと、3x3.EXE PREMIERはBリーグの選手が参加したりもしていますよね。我々もやるのであれば、本質的なところでやっていきたいと考えていました。それと弊社は、アメリカ法人もあります。日本発のテクノロジーを世界に発信していくうえで、3x3.EXE PREMIERがグローバル展開していることが、決め手のひとつでありました」

ADDELM ELEMENTS.EXEが出場するRound.2ららぽーとTOKYO-BAY会場の様子

参戦へと背中を押したもうひとつは、3x3.EXE PREMIERはだれもが自由に観戦できるオープンスペースでの大会開催が主であること。

「3x3.EXE PREMIERは街のなかで試合を開催していて、広くいろんな方に見ていただける機会があります。弊社は日本の方にももっと、AddElmの名前を知っていただきたい思いがありました。ほかのリーグや大会だと限定的にしか見られないこともあります。そうではなく街のなかや商業施設で、不特定多数の方にAddElmの名前を知っていただけるのも、すごくメリットだと感じましたね」

3x3はプレーのなかで、俊敏かつ激しい動きが連続する。AddElm社が製品開発するうえで、そういった競技特性は適しているのではないだろうか。

「もう、まさにですね。弊社はいろんなスポーツを幅広くサポートさせていただいていますが、とくに動きが激しい競技は我々のコンセプトとも合っています。弊社のフィロソフィーは『EXPAND YOUR POSSIBILITIES』で、これは『あなたの可能性を拡げる』という意味です。3x3.EXE PREMIERに出場する選手たちも、試合や練習で自分のスキルを試して伸ばしながら、自分の可能性を拡げていく。こういった考えも、私たちと合っています。いろんな観点から3x3.EXE PREMIERとは、いくつも高い親和性があると感じていますね」

合同練習に参加した時の様子©mika_pi

参戦1年目の今季に掲げるテーマは、「記憶に残るチームになる」。これに関しては、チーム運営を担当する武藤萌子マネージャーが語る。

「競技の結果としては、やるんだったらプレーオフに行けるように頑張りましょうという話をしています。それと同時に『可能性を拡げる』という弊社の、そしてADDELM ELEMENTS.EXEのフィロソフィーを体現して、私たちのことを知ってくださった方々がわくわくしてくれる。そんな記憶に残るチームになろうということも、選手たちと共有しています」(武藤マネージャー)

「試合の結果も、もちろん」と口にし、杉本オーナーが話を受け継ぐ。

「みなさんの記憶に残ってもらえるためには、選手個々が、チームがどう成長していくかのストーリーも大事です。あとは選手たちのセルフブランディングの部分だったりで、日常をよりカッコ良くすることも疎かにできません」

杉本オーナーは青春時代を野球に費やした体育会系のアスリートで、その後にストリートカルチャーに触れてその世界に精通していった。現在は社で、アパレルのデザインも手掛けている。プロスポーツは、エンタテインメントのひとつ。プレーで魅せることは当然だが、ユニフォームやチームウェアなどファッションの側面でも見られることを意識すべきだとの考えを持つ。

「『このスポーツウエア、カッコいいじゃん』とならない。それが、以前のスポーツアパレルの課題でした。だけどそこにカルチャー性を持たせれば、バスケットのユニフォームがひとつのアイコンになることもあり得ると思います。そのことを選手にも、みなさんにも知ってもらいたい。もちろん勝つこともこだわりとしてありますが、まずは見ていて面白い試合ができるか。攻めるグラフィックも大事にして、そのビジュアルがどうカッコ良く作用するか。そこまでいろいろと考えて、やっていきたい」

長谷部健渋谷区長を表敬訪問した杉本健会長(右から2番目)や片瀬俊哉選手©ADDELM ELEMENTS.EXE

ADDELM ELEMENTS.EXEがホームとするのは、東京都渋谷区。Bリーグの渋谷サンロッカーズをはじめ、3x3でも複数のチームがホームとする街であり、ストリート発祥の3x3にとっては聖地ともいえる場所である。バスケットボールが文化として根付いている場所で自らの存在を示すためには、独自性を出さないといけない。

「それはやはり、チームのユニーク性だと思います。初年度からいきなり、選手にオリジナリティやユニーク性を求めるのは難しいでしょう。ですがゆくゆくは、我々が求めるものに沿ったアイコニックな選手が現れるようにしたい。その選手を弊社のキービジュアルの撮影に起用したり、ストリートカルチャーの発信もこれからたくさん始めていくので、そういうところに露出できるような選手も育っていきたいですね。日本のアスリートは、セルフブランディングが苦手な印象です。なのでそれを教えていく機会を作ったりして、対外的に“カッコいいチーム”にしていきたいですね」

©ADDELM ELEMENTS.EXE

1年目のシーズンは片方の目で結果を追いながら、もう片方の目ではADDELM ELEMENTS.EXEらしいものを求める。

「中長期的には、競技力で世界に通用するチームにしたいのは大前提。ですが1年目にまず注目してもらいたいのは、ビジュアルですかね(笑)。選手のビジュアルもこれから整えていきたいですし、既存のバスケットチームにはないような少し変わったロゴを作っていたり、ユニフォーム展開もちょっと遊んで作っています。チームの雰囲気を『なんか、原宿っぽいな』と感じさせることができれば、初年度は成功だなと思います」

ビジュアル面も含めてADDELM ELEMENTS.EXEは、3x3.EXE PREMIERのなかで尖った存在になりそうで楽しみだ。

(Text by カワサキマサシ)

TEAM information

Team:ADDELM ELEMENTS.EXE
(アドエルム エレメンツ エグゼ)
Category:MEN
Hometown:東京都渋谷区
Since:2024