3x3でも5人制でも、プロバスケットボールの会場に欠かせないもの。それはアリーナMCの存在だ。ビッグプレーが飛び出した際に大いに観客を煽って盛り上げる彼ら、彼女らの存在がなければ、エンタテインメント空間としてのバスケの会場はずいぶんと寂しいものになるだろう。今季に新規参戦するTARUI RAZORBACKS.EXEの南隼人オーナーは、実は現役のスポーツアナウンサーで、プロ野球実況、BリーグのアリーナMC、昨年8月のワールドカップ男子バスケ日本代表戦の実況も務めている。

大学時代にラジオDJを志し、海外留学を経てたどり着いたスポーツとの最初の接点はウインタースポーツ。そこからさまざまに経験を重ね、2012年から横浜DeNAベイスターズのスタジアムDJに抜擢されるのだが、ここがひとつのターニングポイントだった。球団の親会社がTBSからディー・エヌ・エーへと代わり、さまざまな事柄に変革が生まれるタイミングだった。

「プロ野球に新規参入するのは、頻繁にあることではありません。当時のベイスターズの内部はいわゆるスポーツビジネスが勃興したみたいに、破天荒な感じでどんどんチームが変わっていく。その様を僕は、間近で見ていました。チームが旧体制からどんどん変わっていく様子を体感した経験は、自分にとって非常に大きなものでしたね」

オーナーを務める南隼人氏©YDB

横浜DeNAベイスターズへと新生した初年度からスタジアムの声になり、しばらくしてタレント事務所を興して社長になった。

「社長になって、その次はなんだろうなと考えているうちに、自分でスポーツチームの運営をしたいとの思いが浮かび上がってきたんです。それまでもスポーツイベントの制作には携わっていましたが、スポーツチームとの関わりは、いちアナウンサーやMCでしかありませんでした。自分でなにかしらスポーツチームを立ち上げたいと思ったのが、最初のきっかけですね」

その考えが芽生えてからは野球の独立リーグやバレーボール、フットサルなど、さまざまな競技を調べた。そうしていくうちに現在の自社の規模に収まり、なおかつ培ってきたノウハウが使える。そして付き合いのある周囲の企業の理解も得やすいことから、3x3チームの結成へと至った。東京オリンピック以降は3x3人気が高まり、現在ではさまざまなリーグや大会が開かれている。そのなかで、なぜ3x3.EXE PREMIERだったのか。南オーナーの答えは、実に明確だ。

「いちばんは、認知度がもっとも高いことです。それに選手たちのレベルもいちばん高くて、なおかつ選手たちには出場給が出る。そのことで、プロと名乗れるというところは大きな要素ですね。プロということには、こだわりました。ほかのリーグは歴史が浅かったり、リーグの仕組みが分かりにくいと感じるものもありましたから。その点で3x3.EXE PREMIERは運営がしっかりしていることも、大きなポイントでした」

チームのホームタウンに定めたのは、岐阜県南西部の西濃といわれる地域にある垂井町(たるいちょう)。ここは、南オーナーの出身地である。

「人口2万6000人の街で、とくにこれといった産業はありません。本当になにもないからハレーションも起きないし、子供たちもみんなすくすく育っている。1時間もかからないくらいで名古屋まで出られるので不自由がない。たぶん、日本でいちばん幸せな街ではないですかね(笑)」

なにもないがゆえに、町のアイデンティティになるものもない。そんな町のシンボルになるべく、TARUI RAZORBACKS.EXEを立ち上げた。

「なにもないということは、なにかを作れるチャンス。なにもないから、なにかを動かせるチャンスでもあると思っています。僕らはアイコンと呼んでいて、TARUI RAZORBACKS.EXEが町のアイコンになれるように活動してい くという思いが、いちばんにあります」

「垂井曳やままつり」参加の様子©TARUI RAZORBACKS.EXE

TARUI RAZORBACKS.EXEが、町のアイコンになることはもちろん、南オーナーの構想は、そこだけにはとどまらない。

「僕らの会社は、イベント開催も手掛けているんです。そのノウハウを活用して、TARUI RAZORBACKS.EXEは野球教室もやれば、バレーボール教室や柔道教室もやってきました。音楽フェスもやりたいし、おじいちゃんおばあちゃん向けに寄席とかもやりたい。そういったことを実践していくうちに『TARUI RAZORBACKS.EXEさんにお願いすれば、地域が盛り上がるイベントが実現する』というふうにしていきたいですね」

それと並行して、頭のなかにある考えをさらに有機的に広げていくこともビジョンにある。

「チームの第1フェーズとしては、選手のデュアルキャリアは致し方ないと思ってます。だけど将来的にはプロチームとして、選手たちに年俸制みたいな感じで給与を出してあげたくて、3x3だけでご飯が食べられるようにしたい。そのために、2027年から第2フェーズに入りたいと思っているんです。そのタイミングで自分たちでスポーツパークを持ち、自分たちでその箱を運営してイベントを行っていくことを考えています」

垂井町との地域活性化に関する包括連携協定締結式©TARUI RAZORBACKS.EXE

協賛企業のサポートなどを得ながら、組織としての足腰を鍛えていくのが第1フェーズ。ただそれに頼りきりになるのではなく、2027年と定めた第2フェーズからは自立していくことを目指す。そのためのひとつのカギになるのが、南オーナーが構想するスポーツパークなのである。

「基本的には、総合スポーツパークという形ですね。屋内コートがあって、場外にはスケートボードができたり、パルクールができたりする施設がある。うちの会社はビーチスポーツをやっているので、将来的にはビーチコートなんかも作りたい。そこは我々の練習拠点でもあり、町の人たちに気軽に見に来ていただいてチームと触れ合い、応援してもらえる場所にしたいと思っているんです」

チーム名のRAZORBACKSも、垂井町の地域性を反映してつけたものだ。

「僕は留学を経験しているので英語はある程度わかるのですが、レイザーバックスという単語に出会ったものの、言葉の意味を知らなくて。それで調べたら、野生のイノシシと出てきたんですよ。垂井町は普通に、イノシシやシカが出てくるんです。レーザーバックスという言葉の響きも、カッコいいなと思いました。あとエンブレムのなかには山もあって、そのモチーフは伊吹山。伊吹山の伝説には白いイノシシが出てきて、それは伊吹山の神様なんです。町でその伝承を知ってる人は、あんまりいないかもしれませんが(笑)。いずれにしても、垂井町を象徴するものだと思っています」

チームメンバー©TARUI RAZORBACKS.EXE

南オーナーの本業であるアリーナMCは、目の前で起こったことに対して、即時に言葉を紡ぐことがマストとして求められる。それを実行するためのポリシーは、「迷ったらGO!」。この精神は、チームのプレーにも反映される。

「迷ったらGOは、チームにも言っています。迷ったら、自分の力を信じてくださいと。ただし、シュートを打つのなら決めてください。決められないのなら、練習してくださいということなんです。決められない選手は出られないだけで、そこは個人の責任。至ってシンプルですよね。チーム内の序列が実力至上主義かといえば、それはもちろんそうですね。我々はあくまでも、プロスポーツチームですから」

参戦1年目の今季は、ひとつひとつの勝利を求めることがまずは第一の目標。そうしていくのと同時に、こだわりたいことがある。

「6月のRound3と、8月のRound6が名古屋で開催されます。名古屋は樽井町から足を運べる距離ですから、地元の人たちに来ていただいて生で観戦してもらいたいですね。僕らとしても垂井町の人たちの『どこで試合やってるの』という声に対して、『名古屋で試合があるから見に来てね』と答えられますから。ファンクラブ会員になっていただくとTシャツをお渡ししますので、それを着て応援していただきたいです」

初年度のTARUI RAZORBACKS.EXEは、町のアイコンになるためのスタートとして名古屋で開催される2大会に照準を当てている。

「僕らにとってこのふたつの大会は、ホームみたいな空気を作っていきたいと思っています。そこで勝てば『強いじゃん』となりますし、負けてもプレーする姿勢に感銘を受けてもらったり、3x3に興味を持ってもらいたいですね」

TARUI RAZORBACKS.EXEは6月のRound3と8月のRound6を、なにもない町から、なにかを生む一歩にする。そこで刻んだ一歩を、その先へとつなげていく。

(Text by カワサキマサシ)

TEAM information

Team:TARUI RAZORBACKS.EXE
(タルイ レイザーバックス エグゼ)
Category:MEN
Hometown:岐阜県垂井町
Since:2024