地域に移住し、農業に従事しながら3x3をプレーする。SANJO BEATERS.EXEはそんな“半農半バスケ”をコンセプトに掲げ、新潟県三条市を拠点に2019年から男子カテゴリーに参戦を開始した。今季からは新たに、女子チームが立ち上がる。男子チームを創設した時点から、いずれは女子カテゴリーに参入する構想があったのか。そう問うと、柴山昌彦オーナーは言下に否定した。

選手による農作業の様子©SANJO BEATERS.EXE

「いえ。いずれではなく、もともと女子カテゴリーが希望だったんです。それはなぜかというと、我々には最初から半農半バスケのコンセプトがありました。半分農業をやるとなったら、女性のほうが真面目にコツコツやるんですよね。男性は瞬発的な力を出すことが得意ですが、継続的な力というのは女性の方が得意というのが私の印象です。それで最初から、女子チームで参入と考えていたんです」

だが当時は加盟状況により、女子チームの参入ができない状況だった。それゆえ、男子カテゴリーに参戦。男子チームの立ち上げから6シーズン目にして今季、悲願の女子カテゴリー参入を果たした。

「ここに来て、やっとですね。正直に言うと母体がNPOなので、資金的には非常に厳しい状況ではあります。女子も昨季に参入できれば良かったのですが、それがなかなかできなくて、今年にずれ込んでしまいました」

農業には女性のほうが適しているとの考えと同じくらいの比重で、女子アスリートならではの問題解決に手を差し入れるのも、女子チームを立ち上げた動機のひとつにある。

SANJO BEATERS.EXEを応援し盛り上げることを目的とし設立されたチアチーム“Beat CHEER Kids”
©SANJO BEATERS.EXE

「私どもがやっているNPOは、そもそも社会課題を解決しましょうというところから始まっているんです。その課題のひとつに、女子選手がバスケをやりたいけれど、諸事情で続けられないことがあります。その部分でNPOにできることが、あるのではと考えました。もう1回バスケをやりたいとかリスタートしたい女性が、三条市の下田(しただ)地域に移住をして再チャレンジし、リスタートする。そういう機会があれば、女性が継続してスポーツを続けられるんじゃないかと」

就職や結婚、または女性ならではの出産といったライフイベントによって、バスケを辞めざるを得なかった女子選手に、競技を続けられる機会と場所を提供する。それと同時に母体となるNPOの本懐である地域に移住者を受け入れ、その人数を増やしてスポーツを通じた地域活性化につなげる。

「それが形になれば、選手自身と地域がWin-Winの関係になれるのではないか。地域の社会的課題の解決にも、つながるのではないかと考えています」

女子のロスター6人のうち、5人はすでに移住している。もうひとりは、結婚して以前から三条市に移り住んでいる石倉(旧姓:大城)利佳。大阪の強豪校である人間科学大を経てWリーグの新潟アルビレックスBBラビッツで活躍し、2018年に引退した。それから結婚と出産を経て今季、3x3.EXE PREMIERで競技に復帰する。石倉のバックグラウンドは、まさにSANJO BEATERS.EXEの在り方を示すようなものだ。

「彼女には3人の子どもがいて、確か上が4歳くらいの双子の男のコで、下も男のコで2歳くらいだったかな。まだ手のかかる3人を育てながら、バスケに復帰するんです。本人はすごく嬉しいんですよ、バスケをやっているときが。大阪の全国制覇を目指すような学校で努力をして、Wリーグに入ったほどの選手ですから。彼女の背景や復帰にいたるまでの過程などは、本当に我々のチームが目指している姿を表すものですね」

選手による農作業の様子©SANJO BEATERS.EXE

SANJO BEATERS.EXEのメンバーたちは、地域おこし協力隊の制度を活用して柴山オーナーが運営するNPOの職員となり、すでに農作業に従事している。

「NPOで棚田を持っているんです。そこは17~18年ほど耕作放棄されてきて、それを田んぼに復活させて我々が管理しています。そこで農作業の手伝いですね。田を打ったり、周りの草刈りや稲刈りなどを、一連の流れでやってもらっています」

若い女性たちが定住し、バスケをしながら農業をやっている姿を見せれば、それは地域にとってロールモデルになるだろう。

「そうですね。仰る通りだと思います」

柴山オーナーはそう頷きながら、まだまだ課題もあると続けた。

「三条市に移住してくれた男子選手もいましたが、なかなか定着するに至っていません。ここで地域の人たちと関係性を築き、なおかつ仕事がちゃんとできて、自分たちの生活も成り立ってバスケもできる。そういう状況を、どう作り出すかが課題ですね」

実際に過去の男子チームの選手には移住はしてくれたものの、半農や地域貢献、地域密着が十分に取り組めなかったケースもあったという。そういった苦い経験を糧に男子チームの今後ももちろん、女子チームでも目指すコンセプトを具現化する。それを目指すうえで明るい要素は、新規参入する女子選手に覚悟が伺えること。

SANJO BEATERS.EXE 2024 ロスター©SANJO BEATERS.EXE

「きちんと覚悟して移住してきて、バスケに取り組む姿勢が見えますね。覚悟を持って来ているから、どこまでかはわかりませんが、チームのコンセプトも理解してくれていると思います。彼女たちにはことあるごとに、とにかくフェアにやりなさい。地域や近所の人から、応援されるチームになろうよと話しています。あともうひとつは、バスケ選手として活動するのであれば、どうしても人から違う目で見られる。普通の人ではないと見られるので、なおさら丁寧に対応して、地域のためにどうすれば貢献できるのか。その意識を落とし込むことが、必要だよと伝えています」

参戦1年目はプレーオフ進出を目指すと同時に、地元の人たちにSANJO BEATERS.EXE女子チームの存在を認知してもらい、彼女たちのプレーを実際に見てもらうことも大事な目標としている。

「選手登録は8人ができますが、我がチームは今のところ6人しかできていないんです。登録メンバーが8人揃って自前でチーム練習ができて、ほかの3x3.EXE PREMIERに参戦するチームを三条市に呼んで、公開練習などができれば。そこまでいければ、今年はいいのかなと思っています。先ほども申し上げたように、近所の人たちから応援してもらえるチームになりたいですが、現状は地元の人たちにゲームを見せることができていません。ここは、もっとも苦慮している点なんです。彼女たちが一生懸命にやっている姿を、地元の人たちにも見てもらいたい。1年目の今年は、そういう機会を作れればいいなと思っています」

開志国際高等学校バスケットボール部で3x3の普及活動©SANJO BEATERS.EXE

中長期的にはSANJO BEATERS.EXEの女子チームの活動を知って、バスケを諦めてしまった女子アスリートたちから「あのチームで、やりたいよね」という声が上がるのも目標のひとつ。

「そのためには継続することと、結果を残すことですね。自分がロールモデルになれることを目指せる場があると知り、この三条市下田地域という中山間地域に継続的に人が来る。そうなってくれれば、中長期的にはいちばんいい結果。そうなれることを目指して、やっていきます」

“半農半バスケ”を、設立からのコンセプトどおりに像を結ばせる。そのためにSANJO BEATERS.EXEは、確固たる意志を持って第一歩を踏み出す。

(Text by カワサキマサシ)

TEAM information

Team:SANJO BEATERS.EXE
(サンジョウ ビーターズ エグゼ)
Category:WOMEN
Hometown:新潟県三条市
Since:2024