“女性が活躍できる社会”。これは昨今、目立って取り上げられるテーマである。その社会の課題に3x3で切り込んでいくことを主題のひとつにし、岐阜県東部の東濃地区といわれる多治見市をホームに定めてTONO VALKYRIES.EXEは立ち上がった。

「アスリートを取り巻く環境を考えると、女子と男子に格差があるのは否めないと思います。残念ながら3x3.EXE PREMIERにも、そうした一面はあります。私たちは本業で女性が活躍する会社を運営していまして、スポーツの世界における女子選手の扱いも、本業で取り組んできたのと同じような社会問題のひとつだと考えています。そういう現状を少しでも改善できたらというのが、チームを設立するに至った主な思いのひとつですね」

そう語る河村憲良オーナーの本業は、教育・介護・福祉・育児・生活など多岐にわたる事業を展開する企業の創業者。事業で“働く女性”を支えてきた経験と実績を生かし、今度は“闘う女性”をサポートする。

株式会社FiveBoxes代表取締役 河村憲良氏©TONO VALKYRIES.EXE

「“闘う女性”の意味合いとしては、本当に試合で闘うということがひとつ。もうひとつは、かつてヒラリー・クリントンさんが「だれかが、ガラスの天井を破る」と言っていたじゃないですか(キャリアの先が開けているはずなのに、それを阻む“見えない天井”が存在するとのアメリカの比喩表現)。女性アスリートを取り巻く環境にある、“ガラスの天井”をぶち壊すために闘う。選手たちには、そういう人になってもらいたいとの思いがあります」

多角的に経営を行う本業の強みを生かして、“闘う女性”を“働く女性”としても支えていくプランがある。

「チームを設立した考えのなかに、それもありました。我々は介護事業もやっていますが、この事業の先は本当に苦しいんですよ。昨夏に老人ホームを新設して、初月から黒字でした。そんな事業があったら、普通はすぐに次をとなりますよね。だけど、手が出せない。スタッフを募集すると、応募者のボリュームゾーンが60代だったんです。これではとてもじゃないですが、未来が見通せません」

たとえばこういった施設が、TONO VALKYRIES.EXEの選手が働く場所のひとつになれば良いのではないか。河村オーナーは、そう考えている。

「いわゆるデュアルキャリアで選手をやりながら、介護施設で働く。プレーヤーでいる間は競技を続けるために、収入を得ることが主な目的かもしれません。だけど働いているうちに介護の面白さに気づいて、介護を続けていくのもありかなと思うんです」

さらに「それと」と言って、次のアイデアを披露する。

「我々はリラクゼーションマッサージの店舗も持っていて、それはタイ古式マッサージなんです。あれは基本的に、ストレッチなんですよね。なので、アスリートとすごく相性がいい。ジムで働きたいというアスリートの方は、多いと思います。でもジムは今、無人系などの簡単にやりたい人向けと玄人好みがするものとで差別化が図られていて、インストラクターが余ってきている。だったらインストラクターと同じような感じで、リラクゼーションマッサージのセラピストを目指してみるのもいいのではないかなと。今回、選手の方とお話する過程でその話をして、ご興味を持っていただけた人もいました。今すぐにどうこうではありませんが、将来的にこれも選択肢のひとつになるかなと思っています」

TONO VALKYRIES.EXE 2024 ロスター©TONO VALKYRIES.EXE

TONO VALKYRIES.EXEを立ちあげたのには“闘う女性”を支えるのと同時に、もうひとつの目的がある。それは、若年層のバスケットボール環境を整えること。近年は教員の働き方改革もあって、一般的な公立校では部活動の時間が短くなっている。そのため「もっとバスケがしたい」「バスケが上手くなりたい」との欲求を持つ中高生には、物足りない活動環境になっていると、河村オーナーは感じている。

「バスケは小学生までのミニバスはスポーツ少年団みたいなもので、そこまではすごく活発です。だけど伝統的に、中学校以降は部活になってしまう。サッカーや野球はクラブチームがあって、部活以外でも活動できます。バスケも都会の街ならクラブチームがあるかもしれませんが、我々の地元のような地方にはクラブもなければ、バスケスクールもあまりありません。なので我々としては、女性アスリートを取り巻く環境の改善とともに、地方における子どもたちのバスケットを行う環境を整えることにも寄与していきたい。このふたつがガチッと合わさって、3x3.EXE PREMIERに加入させていただいきました」

短期的目標のなかには、TONO VALKYRIES.EXEのジュニアチームやスクールを立ちあげる構想もある。

「チームが発足したら、どこかのタイミングでスクールをやりますとか、そういったことを地域貢献の一環でやっていきますと発表して、来年くらいには本格的なスクール事業とU-15のチーム運営をと考えています。岐阜県にはB3や地域リーグに参加しているバスケチームはありますが、それはほぼ男子なんです。スクールに通っているのも主に男子で、女の子も来てもいいよとなってますが、教えるのは基本的に男性のコーチ。女性のコーチが、女子を教える場があってもいい。我々は、今までに塾や習い事などをやってきているので、ピアノ教室やダンス教室と同じように、指導者と子どもたちをつなぐバスケット教室もできると思っています」

多治見市 高木貴行市長表敬訪問の様子©TONO VALKYRIES.EXE

女子アスリートの支援、若年層のバスケ環境の整備とともに、3x3を通じた町おこしの支援にも力を注ぐ考えだ。

「多治見市には古い町並みがありますが、ご多分にもれずなかなか活性化していかないんです。それでもすごく頑張っていて、私たちも関わる機会があります。我々としては、その活性化のお手伝いをしたい。3x3は体育館ではなくて、やろうと思えば街の広場でもできる。そういったエンターテイメントのところで、町おこしに寄与できないかと考えています。“闘う女子”のサポート、子どもたちがバスケをやる場の創生、そして町おこし。これが私たちの、3つの柱ですね」

競技である以上もちろん結果を追うが、初年度からそれを過剰には求めない。河村オーナー自身はバスケットボールの競技者であった経験はなく、プロスポーツチームを運営するのも初めて。だからこそ、謙虚な気持ちで初年度に挑む。競技の結果とともに自分たちの足場をしっかりと固めることを大切にし、チーム創設の理念である3つの柱を太くしていく。

(Text by カワサキマサシ)

TEAM information

Team:TONO VALKYRIES.EXE
(トウノウ ヴァルキリーズ エグゼ)
Category:WOMEN
Hometown:岐阜県多治見市
Since:2024