昨今話題の『部活動の地域移行化』は、多くの人が目に・耳にしたことがあるのではなかろうか。学校の部活動を「教員」が行うのではなく、文字通り「外部講師」が行うという取り組み。地域移行化が実現していけば、教員の働き方改革、子どもたちの競技力向上・学校生活の活性化や、外部委託先のアクティベーションなど、さまざまなメリットがあるとされている。各都道府県が検討を進めている中で、昨年に続き埼玉県さいたま市が、さいたま市立片柳中学校の男女バスケットボール部を舞台に実証実験を5回に分けて実施することとなった。

指導にあたるのはSAITAMA WILDBEARS.EXEの選手たち。本記事では、SAITAMA WILDBEARS.EXEのオーナー:中村弘毅氏と、所属選手である河本裕一選手に、彼らの活動やチームのビジョンをベースに、実証実験についてなど多角的に話を伺った。

最初はたった1人のバスケファン。今は3x3チームのオーナー。
中村氏が考える、選手や指導者の在り方とは

そもそもだが、SAITAMA WILDBEARS.EXEの中村オーナーは、埼玉県さいたま市にある『つきのみや法律事務所』の所長であり、現役の弁護士として活躍している。そんな彼がなぜ、2020年から3x3のチームを持つことになったのか。

中村:「元々は、ただバスケットが好きな1人のファンだったんです。もっと言うと、弁護士になる前はNBAの日本放送の解説者になりたかったという夢もありました(笑)。それくらいバスケットが好きでして。Bリーグの試合を観に行けばサイン会に参加したり、SNSでコメントしたりしていたんです。

多くの選手と話す中で、徐々に「ファンとしても正しいけれど、自分で運営してみたい」という希望がどんどん出てきたんです。そんな折、3x3のチームであれば個人でもオーナーになれると聞き、参加を決めたのが2020年のことです」

純粋な1人のバスケファンだった中村氏だが、3x3のチームを持ち、業界の中を見渡すことで、また別の世界も見えてきたという。

中村:「弁護士の視点で考えた際に、3x3の選手の待遇やチームとの契約関連はもっと整備した方が良いと感じたところもありました。法律や契約で守られていることで、選手が安心してプロとして活動できるようにする。

また、永続的にチームを経営していくことを考えた際、チームとしての魅力は重要です。強さを求めて上手な選手を単年契約で集めても「去年の選手が誰もいない」となってしまえば意味がない。選手にとって魅力に感じられたり、次のシーズンも居たいと思ってもらうためには、単純にお金だけではなく、契約として守られている状態が必要じゃないかなと」

「契約として守られる状態」を、中村氏は現時点ではなく5年後、10年後の未来も見据えて考える。

中村:「このチームを作った一番の目的は、”選手のセカンドキャリアを守りたい”という想いからなんです。プロのキャリアはどうしても寿命が短いですから、その先の人生の方が圧倒的に長い。セカンドキャリアが保証されている状態であれば、きっと選手は安心してプロになれると思うんです。

この状態を作るためには、チームとして地域の色んな活動に関わりつつ経営を安定させる必要がある。小中学生の子どもたちが安心してバスケットに触れられる機会を作りながら、選手も指導者や経営に参画するなどで生活を成り立たせられる組織づくりができれば、良い循環になると思うんです」

SAITAMA WILDBEARS.EXEのオーナー:中村弘毅氏

地域のさまざまな活動に関わること。今回の『部活動の地域移行化』において、中村氏は別軸で動こうと考えていたそう。

中村:「2023年度から部活動の週末の外部委託が始まることは、しばらく前からニュースでも流れていましたので、その時にしっかりと指導者が派遣できる組織が必要だとは思っていました。最新の知識を用いて、技術に加え身体の作り方を含めて教えられるような活動ができれば、子どもたちの選択肢も広がると思うんです。そこに関わりたいと、当時から思っていましたね」

続けて中村氏は「ちなみに僕は、バスケットは高校2年までで、全然上手くないんですよ(笑)」と笑顔で語る。

中村:「学生のタイプはさまざまですよね。バスケットが上手な子も、私のように上手くはないけどバスケットが大好きな子だって、きっといると思うんです。世の中プロじゃない人の方が多いですから、競技が好きで、たまにバスケしたい、といった人を増やしていくことも大事。だから今回、片柳中学校で指導させていただけるというお話があったときは、純粋に嬉しかったです。

とはいえ片柳中学校視点で「外部の営利企業が入ってきた」と思われてはいけませんので、信頼関係の構築だけは気を付けました。役割分担をしっかりし、お互いに気持ちよく指導できるようにしようと」

取材は2023年1月14日の実証実験4回目にて実施したが、既に選手と子どもたち、選手と顧問の先生方との関係性は非常に良好に見えた。コミュニケーションも頻繁に取り、学校側の理想と講師側の意図が、子どもたちにも伝わっている様子が印象に残っている。

同日、指導を終えたSAITAMA WILDBEARS.EXE #87 河本裕一選手もコメントをくれた。

河本:「今回は男女両方を見ないといけなかったので、それぞれに合わせた教え方は難しさがありました。先生方とお話をしながら、要求いただいたレベルに届くように試行錯誤しましたね。途中から指導に入る難しさもありましたけれど、少しずつ手応えのようなものは感じています」

”手応え”を感じられるようになったのは、子どもたちとのコミュニケーションの量が1つ鍵になった。練習中も、笑顔を絶やさない河本選手が印象的だ。

河本:「全5回しか指導ができないので、良い雰囲気の中で、最低でも「バスケが楽しい」と思えるキッカケになれればとは考えていました。「ベアーズの選手が来てくれたから楽しかった」と言ってもらえるように、まずは自分が楽しもう!と。そうしていったら、子どもたちから「〇〇がわからない」「さっきの動きをもう一回教えて欲しい」と伝えてくれるようになったんですよね。コミュニケーションの積み重ねが、この言葉に代わったんだと思います」

「地区で勝ち切れるチームにしたい」「県大会でも勝てるようにしたい」顧問の先生からは、このような具体的なオーダーがあったそう。その理想を叶えるべく、子どもたちとコミュニケーションをしていく中で、河本選手自身にも大きな気づきがあったという。

河本:「勝ち切るためには、重要なところでミスしないとか、判断を間違えないとか、本当に基礎の基礎が必要だと考えて、足の動かし方、手の向きなどの細かい所から、基礎練習と実践練習を交えながら指導をしました。

また我々としても、間違いなく今回の経験は次に活かせるとも思いますし、スクールを拡大していくにあたっても良い経験です。加えて指導面だけではなく、子どもたちが我々を見てバスケットをもっと好きになってもらえたり「こういう選手になりたい」と思えるキッカケづくりを強化していこうと改めて思えました。今回を機に、よりさいたま市、埼玉県への貢献や日本の3x3の発展に尽力出来たらと、より一層思えたので、引き続き頑張ります」

河本選手の取材が終わると、中村氏が続けて、地域貢献に対するチームへの思いについても話してくれた。「競技力だけではなくて、指導力も上げていきたい」と。

中村:「河本は体育の教員免許を持っているんです。スクールでも指導経験があるので、彼をメインに、今回は指導者を選びました。また、ベテランと若手を必ず組み合わせて指導者を派遣しています。河本の指導を若手に見てもらって、若手が一緒に指導しながら学ぶ構図。あくまで”その先”を見据えて、色々吸収してもらいたい」

セカンドキャリアやデュアルキャリアに対する考え方が非常に強い中村氏だからこそ、チーム作り・組織作りにおいても、そのこだわりは色濃く反映されている。

中村:「プレー以外の場所でのふるまいや、コート内外でも子どもたちと触れ合えるような選手じゃないと地域貢献はできないと考えています。顔が見える関係性を作った先でも、コミュニケーションを大切にできる選手は積極的に獲得したい。

また我々としては、指導者を育成できるチーム作りもしていく予定です。選手としてはプロじゃないけれど、指導者としてはプロとしてやっていける人材を育てること。プロ選手と一緒に練習や試合に臨めるので、Win-winだと思うんです。加えて、同じことを女子でもやっていきたい。その結果、今回のような地域貢献に繋がれば理想的ですね」

『バスケットが好き』という中村氏のピュアな気持ちから始まったSAITAMA WILDBEARS.EXEは、”法律”というオーナーが持つ最大の武器を駆使し、これからも誰もがバスケットを好きで居続けられるような活動を継続的に行っていく。選手、指導者、そしてファン。バスケットボールという競技そのものを発展させていくこと、それを埼玉県からもっと大きくしていくこと。SAITAMA WILDBEARS.EXEは、新たな未来を創造しはじめたばかりだ。

◤TEAM information◢
Team:SAITAMA WILDBEARS.EXE
Since:2020
Hometown:埼玉県久喜市
HP:https://wildbears-saitama.com/
SNS:
(Twitter)https://twitter.com/sai_wild_bears
(Instagram)https://www.instagram.com/wild_bears_saitama/

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(Text by 小林 亘)