スピードとパワーが凝縮された、いま注目の3人制バスケットボール『3x3』。わずか10分という限られた時間の中で繰り広げられる攻防は、見る者の心を惹きつける。その一方で、誰よりも近くでプレーを見守り、試合の流れを支えている存在がいる――それが“レフェリー”だ。

選手と同じようにコートを走り、瞬時に判断を下しながら試合の流れをコントロールするレフェリーには、高い集中力と強いメンタル、そして確かな技術が求められる。『3x3』の人気と競技レベルが高まる中で、レフェリーの役割はますます重要になっている。

今回お話を伺ったのは、FIBAレフェリーライセンス保有者として国内外の大会で活躍する3x3レフェリー・野﨑さん。選手としての経験を経てレフェリーの道へ進んだ彼女が、どのようにしてキャリアを築き、どんな思いで笛を吹き続けているのか。日々の体調管理やメンタルの整え方、そして“レフェリーという仕事”の魅力について、じっくりと語っていただいた。

※取材日:2025年3月22日

「笛を吹く側」になって初めて気づいた、バスケの新しい面白さ

__:まず、バスケットボールを始めた当時のことを詳しく教えていただけますか?

野﨑:「私がバスケットボールを始めたのは、中学校で部活を選ぶときでした。仲のいい友達が小学校からミニバスをやっていて、“一緒にやろうよ”と誘われたのがきっかけです。」

__:選手としてはどのくらい続けられたんですか?

野﨑:「25歳くらいまでクラブチームに所属し、社会人になってもプレーヤーとしてバスケットをやっていました。」

__:それがレフェリーに興味を持たれたのは、いつ頃なのでしょうか?

野﨑:「高校時代の顧問の先生とアシスタントコーチがレフェリーをされていたんです。最初は全然興味がなかったのですが、その先生たちが実際に試合でレフェリーをしている姿を見て、“教わりたいな”と思ったのがきっかけですね。
高校1年生のときに、三者面談で“レフェリーをやってみたい”と担任でもあった顧問の先生に話したら、翌日にちょうど練習試合があって、そこで初めて笛を吹かせてもらいました。最初は練習試合で少しずつやっていく感じでした。」

__:実際に笛を吹いてみて、選手目線との違いは感じましたか?

「すごく感じました。選手としてコートに立つのとレフェリーとしてコートにいるのでは、同じバスケでも見え方が全然違うんですよ。どうすれば良いレフェリングが出来るのか?と思うようになり、私自身が負けず嫌いなので“もっと上手くなりたい”と思うきっかけになりました。
さらに、いいプレーを間近で見られるのもレフェリーの特権だなと感じて、モチベーションが上がりました。」

10分間の緊張感。レフェリーが語る3x3のリアルな現場。

__:野﨑さんは5人制も含めてレフェリーをされていて、最近は3人制(3x3)の活動にも力を入れていると思いますが、最初は5人制のレフェリーから始められたんですよね?

野﨑:「はい、高校生の頃からレフェリーを始めて、メインはずっと5人制でした。」

__:5人制と3人制でのキャリアを比べると、5人制のほうが長いんですね。3人制に興味を持たれたきっかけは何でしょう?

野﨑:「2014年、地元の仙台で3x3のFIBA 3x3 World Tour FINALが行われたんです。私が学生だった頃に、ゼビオアリーナ仙台で開催されて、テーブルオフィシャルとしてお手伝いをしたのが初めての出会いでした。
選手として3人制に出たのは、社会人になってから1回だけで、“楽しいな”という印象がありましたね。」

__:3x3のレフェリーの魅力はどんなところだと感じますか?

「まず、ハーフコートで展開されるバスケットなので、ダイナミックさを間近で見られるところがレフェリーとしての醍醐味だと思います。観客との距離も近いので、盛り上がりを肌で感じて“私もこの世界にいる”と実感できるのが魅力ですね。
もちろん難しい部分はありますが、3x3ならではの良さがあります。」

――:3x3は10分間(または21点先取)という短い試合時間が特徴ですが、レフェリーにとってはどんな影響がありますか?

野﨑:「10分しかないうえに、早ければ4〜5分で終わることもあるので、その短時間に集中力を最大限発揮しなければいけません。選手のインテンシティ(=プレーや感情の激しさや強度)も高いので、レフェリーも置いていかれないよう切り替えの早さが必要です。
さらに、レフェリーがミスを引きずってしまうと次のプレーに影響するので、切り替える力やメンタルの強さが求められます。」

――:なるほど。3x3は男子の試合も女子の試合もレフェリーをすることが度々あると思いますが、男女の試合で違いは感じますか?

野﨑:「私自身は大きな違いはないと思っています。男子は身長やフィジカルが強いイメージはあるものの、女子もスピードやシュート力がすごく高いですし、3x3だと男性レフェリーが女子の試合、女性レフェリーが男子の試合を担当する、といった性別を問わない起用も多いので、そこがとてもいいところだと感じます。
ただ、トップリーグ(3x3.EXE PREMIER)のレフェリー人数を見ても、女性は少ないのが現状なので、今後もっと増えてほしいですね。」

――:FIBA 3x3レフェリーの資格をお持ちとのことですが、FIBA主催の国際大会と3x3.EXE PREMIERの国内試合でレフェリーをする際、何か違いはありますか?

野﨑:「私もまだ海外経験が少ないのですが、今我々が取り組んでいることは国際基準にかなり近いと思います。

日本バスケットボール協会が主体となってスキルやルールを丁寧に伝達してくださるので、私たちは日々“国際基準”に沿ったレフェリングを練習しています。海外に行っても、その学びが活かせているなと感じました。」

10分の試合を1日に6本。レフェリーが語る『集中を途切れさせない工夫』

――:10分間という緊張感のある試合を1日で複数試合を連続で担当することもありますよね。試合の日の前や当日はどのような準備をされるんですか?

野﨑:「そうですね。2024年シーズンでは多いときで1日に5〜6試合を担当しました。しかも連続になる場合があって、かなりハードですね。基本的なところでいくと、手洗い・うがい、早寝早起きを心がけたり、コロナ禍のときにスポーツ栄養学を少し勉強して、自分の身体に合う食材や摂り方を意識するようになりました。
また、夫が食事面でサポートしてくれていて、“体作りをしたい”ときなどは一緒に考えながらメニューを工夫しています。」

――:試合と試合の間が短い場合、どんなふうに過ごされていますか?

野﨑:1試合は10分+インターバルで15~20分ぐらいしかありません。そこですべての疲労を取り切るのは難しいので、”切り替え”や”栄養補給”が大事ですね。必ず持っていくのがinゼリーのエネルギーとブドウ糖です。頭をすごく使うときはブドウ糖のほうが助かりますし、そうでないときはエネルギータイプを選ぶ感じです。手軽に飲めて、常温で保存できるので屋外の暑い会場でも持ち歩きやすいですね。

3x3は走る距離は短くても瞬間的な判断や動きが多いので、、試合後は”エネルギー切れ”を感じるんですよ。そんなときにinゼリーはすごく役立ちます。

――:栄養補給で他にも工夫されていることはありますか?

野﨑:「昼食がしっかり取れないときは試合前に飲んだり、5人制なら試合後30分以内に炭水化物とタンパク質を摂るようにしているんですが、3x3では終わった後にすぐinゼリーを飲むときがあります。
屋内外を問わず手軽に使えたり、ベトナムや中国で試合があった際にも持って行っており、 “お守り”のような安心感があってとても助かっていますね。」

――:集中力を保つために気をつけていることはありますか?

野﨑:「正直難しい部分もあるので、模索中です。昨年8月にFIBA 3x3の国際レフェリーのトライアウトで中国に行ったとき、インストラクターの方に“自分をハッピーにする術を持つといい”と教わりました。
例えば、気分転換をしたいときは外に出て深呼吸をするとか、好きな香りをかいでリフレッシュするとか。DJの音楽に乗って気分を上げたりもします。集中が切れそうなときはセルフトークで“今集中しなきゃダメだよ”と自分に言い聞かせる感じですね。」

好きだから続けられる。週末の笛が、平日のエネルギーになる

――:平日はお仕事をされていて、週末にレフェリーをされているんですよね?

野﨑:「はい、平日は事務の仕事をしていますが、週末に大好きなバスケがあると思うと頑張れるんですよ。職場の皆さんの理解と協力にも感謝しています。
平日はしっかり働いて、土日は試合に集中するという切り替えが自分には合っていますね。」

――レフェリーとして今後の目標は何でしょうか?

野﨑:「まず、こんな素敵な競技にレフェリーとして携われることがとても嬉しいです。バスケが本当に好きなので、3x3の魅力をレフェリーの立場からもっと伝えられる存在になりたいですね。
あとは、選手とコミュニケーションをとりながら、一緒に試合を作り上げていけるレフェリーになりたいです。淡々と笛を吹くだけではなく、“みんなでいい試合にする”という感覚を大切にしたいと思っています。」

――最後に、これからレフェリーを目指す方、あるいはスポーツ愛好者に向けて、体調管理や栄養補給などの面で伝えたいことはありますか?」

野﨑:「まず、“好き”という気持ちが一番のモチベーションです。私もバスケが好きという気持ちだけで続けてきました。
長く続けるためには自分の身体を知ることが大切ですね。インターネット上にはいろんな情報があったり、人によって合う・合わないがあるので、自分に合った体調管理や食べ物の選択を、無理なく続けるのがいいと思います。
レフェリーを選択肢に入れてくれる仲間が増えたら私も嬉しいですし、スポーツが好きな人が増えていくのもとても望ましいと思います。

【PROFILE】

野﨑梨奈

FIBA 3x3レフェリー(C-License)

<略歴>
中学でバスケットボールを始め、25歳で選手としてのキャリアを終える。

高校1年生のとき、 進路を考える中でレフェリーに興味を持ち、練習試合をきっかけに5人制の審判を始める。

2014年にゼビオアリーナ仙台で開催されたFIBA 3x3 World Tour FINALを機に3人制バスケットボールに関わりはじめ、その後3x3レフェリーとして本格的にキャリアを築く。 2024年には日本バスケットボール協会(JBA)から派遣され、国際バスケットボール連盟(FIBA)3x3レフェリーの C-License を取得。現在は3x3.EXE PREMIERをはじめとした舞台で、日本を代表するレフェリーとして国内外で活躍している。

取材・撮影:クロススポーツマーケティング株式会社
[PR]提供・撮影協力:森永製菓株式会社