大多喜町は千葉県の南部に位置する、人口8000人あまりの小さな町。ESDGZ  OTAKI.EXEはここをホームタウンとして、2022年から3x3.EXE PREMIERに参戦を開始した。クラブは所属選手にデュアルキャリアを求め、それを貫き続けている。近藤真弘オーナーが、ここまでの3シーズンを振り返った。

「私はほかのチームさんとも関わり合いがありまして、選手同士が毎日、顔を合わせないチームも珍しくないんですよ。それは良くないのではと、私は思っていました。ですから選手たちには運営母体である、株式会社JPFagriの社員として勤務していただく。それとのデュアルキャリアで毎日、一緒に練習していく運営の仕方を取り入れました。この3年間はそれが一応、できたのかなというところですね」

農業や林業に従事する選手たち©ESDGZ OTAKI.EXE
農業や林業に従事する選手たち©ESDGZ OTAKI.EXE


JPFagri社の主事業のひとつは農業。選手たちのほとんどは大多喜町に移住し、農業などに従事しながら、3x3プレーヤーの活動を並行させている。彼らのなかにはここで農業に携わるうちにその面白さに目覚め、積極的に農業に取り組むものも現れてきたという。

「とくに農業担当でやっている選手は就農経験もなく、最初はやらされているような感じでした。でも今は自分でいろんな栽培方法を試行したりと、頑張ってくれています」

そうして今ではオリジナルのブランド米「籠米(かごめ)」を発売したり、自然栽培の野菜を生産するようにもなってきた。かりそめではなく、選手たちにしっかりとしたデュアルキャリアを構築する。それはESDGZ OTAKI.EXEの、重要なコンセプトのひとつ。

籠米(2㎏)©ESDGZ OTAKI.EXE
籠米(5㎏)©ESDGZ OTAKI.EXE

※ESDGZ OTAKI.EXE オンラインショップにて購入可能 ≫ https://jpfagri.base.shop/

「そのことは、とても大事だと考えています。ほかのチームさんでは仕事は自分たちで見つけてもらって、土日だけ集まって練習するということもあります。バスケをするためにアルバイトを転々として、仕事のキャリアを築けていない人もいる。それでは後々、引退したときに可哀想かなと思うんです。我々はバスケをする環境だけではなく、生活する手段も用意したうえで選手を迎える。そうやって、しっかりとしたデュアルキャリアを成り立たせてもらえるようにしています」

「とはいえ」と言って、近藤オーナーは話を続ける。

「仕事への意識は、選手によってまちまちですね。バスケがしたいから来た選手もいましたし、仕事をメインにバスケもしている選手もいます。そのあたりのギャップがあることは、否めないですね」

バスケだけがしたくて大多喜町に来て、仕事は二の次という選手は例外なく去っていくという。たとえ選手としての能力が高くとも、バスケをするだけの人間は雇わない。そして去る者追わずは、クラブの方針。

「うちに入ってから、仕事をしっかりやる選手とやらない選手が分かれてくるので、そこはずっと課題ではありますね。私たちはバスケがやりたいだけの人は、絶対に獲らないと決めています。仕事をメインでやってくれる人しか、雇いません。そのうえで我々から選手をカットすることは、一切やっていません。ただ自分から辞めていくのは、この3年間でずっと続いてますね。そこは新陳代謝として仕方がないですし、それでいいのかなと思います。私たちとマインドが合ってやってくれるのでしたら、バスケの実力があろうがなかろうが雇用しています。仕事のほうで力になってくれるのなら、辞めてもらう必要はありませんから」

チーム結成からわずか3年だが、農業以外にも町の体育館の指定管理者になり、部活動の外部委託も受託。スポーツに関することはESDGZ OTAKI.EXEだと、町役場のなかで共通認識が醸成されるなど、すっかり大多喜町に根を下ろしている。

「部活の外部委託は、今の大多喜町の課題のひとつなんですね。これは、早々にやっていかないといけない。我々がこの地域全部の部活動を担っていくような空気は、だんだんと出てきていますね。教育委員会からも、大多喜町さんからもお願いしますというお話をいただいて、あとは調整していく感じですかね。町長には私たちが、町になくてはならない存在だとおっしゃっていただいています。今後も3x3を核にスポーツの団体として、町に貢献していきます」

選手やスタッフが町を歩いていると、子どもたちから「バスケのお兄ちゃん、お姉ちゃん」と声を掛けられることもあるという。子どもたちのみならず、住民からも自分たちの地元に3x3のチームがあることが認知され、今では町のシンボルのような存在になった。それが形として現れたのが、2年目の2023年に誘致したホームゲーム。

「TIPSTAR DOME CHIBA」での3x3.EXE PREMIER誘致大会(2022年7月)の様子

「大多喜町からバス3~4台で、会場の千葉JPFドームに1000人くらいの方に駆けつけていただいたんです。そのなかには町長、副町長、役場の課長と大多喜町の幹部にたくさん来ていただきました。応援の人数もエネルギーもすごくて、本来なら優勝できる力はないはずなのに、ラウンド優勝できたんです。町の人といっしょに優勝した。そんな感慨がありました。あれはこれまでの3年間で、もっともうれしかったことですね」

50数年前と比べて人口が半減し、高齢化も進んでいる町を、スポーツで再生させる。それはESDGZ OTAKI.EXEが、自らに課したミッション。

「まさに今それを掲げてですね、1月19日にあった大多喜町の町議会議員選挙にESDGZ OTAKI.EXEのマネージャーである、及川はるなが立候補しました。移住してきた、25歳の女性です。私はJPFagri大多喜事業所の所長をやっていたのですが、昨年の12月から代わって彼女が所長になり、一般的な会社の管理職クラスになりました。彼女自身も管理職になるとは思っていなかったでしょうし、町議会議員選挙に立つとも思っていなかったでしょう。その選択をするのは、すごい勇気です。彼女は自分が議員になり、行政に自らの言葉で伝え、大多喜町をもっと良くしていくんだとの強い意志を持って立候補しました」

選挙戦が始まったころの及川マネージャーは不安が表に現れ、近藤オーナーは大丈夫かと心配した。だが日を追ううちに自信をつけ、堂々と演説する姿は圧巻だったと振り返る。周りのサポートがあったことはもちろん、なによりも彼女が懸命に努力した結果、見事に当選を果たした。

「本人はもちろん、スタッフ全員も涙が出るほどうれしかったです。選挙戦を通じて及川は責任感がよりいっそう強くなり、人としてもひと周り大きくなりましたね。チームから町議会議員が生まれたことで、大多喜町のスポーツ振興に拍車がかかることを期待しています。及川自身には遊説でも謳っていた、スポーツで町を元気にという政策を実現してもらいたいです」

ESDGZ OTAKI.EXEのマネージャーを務め、2025年1月の大多喜町議会議員選で当選を果たした及川はるなさん©ESDGZ OTAKI.EXE

2022年に決断した3x3.EXE PREMIER参戦は、ESDGZ OTAKI.EXEにとって未知の挑戦だった。当初は選手にデュアルキャリアを推奨することが、本当に良かったのかと自問自答することもあったという。それでも信念を貫いたことで、チームの歴史が将来的に続く道筋も見えてきた。今後、新規参入を検討するオーナー候補には、以下の近藤オーナーの言葉が参考になるだろう。

「参入してから短期間で撤退されるチームは、事前の計画ができていないのかなと思います。バスケをするためだけではなく、なんのためにチームを作るのか。たとえば地方創生であったり、町を盛り上げるとか。自分たちの柱をメインに据えて考えてやっていけば、ブレはないのかなと思いますね。それがないことには、なかなか続かないでしょうし、いずれパンクするのは目に見えています。単にバスケをやるというだけなら多分、成り立たないでしょうね」

今後の課題のひとつは、チームの特徴たる農業を収益化すること。

「今はまだ農業での収支が、なかなか厳しいんですね。自然栽培の野菜も農薬を使わないことが売りになりますが、その代わりに収穫量が少なくて収益化が難しい。農業が赤字になるので、ほかのところで補填する必要があるのが現状です。指定管理なり部活の外部委託なり、ほかの事業を展開していかないと収支が成り立たないので。3x3のチームがお米や野菜を作っているということを、上手くブランディングしていく必要もあると思います。どうにかして、利益を上げられる農業を進めていかないといけないと考えています」

ESDGZ OTAKI.EXEの歴史は3年と、まだまだ始まったばかり。今後チームが10周年を迎えたとき、どんなことが達成できていたら、正しい道のりを歩んできたと思えるのか。

「今は運営に、我々が携わっています。でもやはり、プレーヤーだけで運営してもらうのがベストですね。プレーヤー兼、運営会社の管理職の人材が労務管理や会計など全部を見て、会社を回してもらえるのが私の希望ですね。そういう人材は、選ばないと仕方がないのかもしれません。だけど結局は、マインドだと思うんです。やるか、やらないか。それだけ。やるという人は、絶対にたどり着けるはずです」

3x3.EXE PREMIERにおいて、地方で自立するクラブの在り方。ESDGZ OTAKI.EXEの取り組みは、モデルケースのひとつになりそうだ。

(Text by カワサキマサシ)

TEAM information

Team:ESDGZ OTAKI.EXE
(エスディージーズ オオタキ エグゼ)
Category:MEN
Hometown:千葉県大多喜町
Since:2022