災害から立ち上がる能登と共に

2025シーズンから3x3.EXE PREMIERの女子カテゴリーに参戦を開始したECHAKE-NA NOTO.EXEが、チーム設立のための具体的な動きを開始したのは2023年12月。当初は石川県の能登地方に3x3のプロチームを作り、少子高齢化が進む能登の地域を活性化させる一助になることが目的だった。

地元で整骨院を営む谷遼典オーナーが経営者の集まりで知り合った、Jリーグチームのフロントスタッフの経験がある平内織衣氏に話を持ちかけ、チーム設立に動き始めた。その矢先に、あの災害が発生してしまう。翌年の元日に起こった、能登半島地震である。当然、チーム設立どころではなくなった。

「整骨院も被災して仕事ができなかったこともあり、ボランティアで避難所を巡って施術を行っていたんです。地元の方々と話していても、みなさん暗いことしか言わないので、明るい話題が欲しいなと思っていました。今こそ3x3のプロチームを作れば、明るい話題になるかもしれない。まったく準備はできていないけど、今動き出そうと決めて平内さんに再度連絡して、そこから本格的に動き始めました」(谷オーナー)

©ECHAKE-NA NOTO.EXE
©ECHAKE-NA NOTO.EXE

被災地でのボランティア活動を行う谷オーナー


当初は町おこしのために立ち上がったが、地震災害を経てチームの在り方が変わった。ただ単に地域のアイコンになるのではなく、大きく捉えれば復興のシンボルになるような、重いテーマを自らに課すようになった。

「最初はみんなで応援すれば楽しいし、子どもたちの夢にもなる。みんなで楽しめたらいいなくらいの、比較的に軽い考えでいました。それがスポーツを通じて能登のことを発信するという、大きな目的に変化しました。チームを作れば、関係人口を作ることにもつながることがわかってきたので、最初よりはしっかりとした目的が持てましたね。それからはECHAKE-NA NOTO.EXEが復興のシンボルになれるようにと、選手たちにはずっと話しています」(谷オーナー)

活動のための資金集めに、クラウドファンディングを活用。チーム作りを進めていた最中の9月に、能登は地震に続いて豪雨災害に見舞われた。相次ぐ災害が、立ち上げたばかりのチームの活動を困難にしたことは想像に難くない。それでもECHAKE-NA NOTO.EXEは、歩みを止めなかった。

©ECHAKE-NA NOTO.EXE
©ECHAKE-NA NOTO.EXE

「クラウドファンディングを始めてから、知り合いらにお願いの連絡をしたんです。そうすることで、つながりが広がっていきました。豪雨の際もクラウドファンディングのサイトを通じて、みなさんに状況をすぐに発信できた。最初は単純にお金が集まればいいなと思って始めたのですが、人とのつながりができて、それが広がっていった。クラウドファンディングをやって、良かったと思っています。それで9月に目標金額を達成できたので、正式に3x3.EXE PREMIERへの加盟申請を出しました」

2024年7月~8月末にかけて実施したクラウドファンティングは見事達成

ECHAKE-NA NOTO.EXEが掲げるチームコンセプトは、“能登と共に”。そのために選手は地元出身者と、能登や石川県に縁ある者で編成した。

「選手は全員が能登の人となれば理想でしたが、さすがにそれは難しかったので出身校が石川県であったり、学生時代に輪島に住んでいたとか、なにかしら石川県に関係している人というくらいに範囲を広げました。有名な選手からも逆オファーをいただいたのですが、残念ながらみなさん能登とは関係がなかった方たちで。移住していただけるのならと交渉しましたが、やはり難しかったですね」

競技力よりも、第一にこだわったのは能登と関係がある人であること。その結果ロスターはふたりの輪島市出身者のほかに、谷オーナーの思惑通り能登に縁のある選手が集まった。GMである平内氏が、チームを紹介する。

「チームには学校で先生と生徒の関係だったふたりが、選手でいるんですよ。#7橋田幸華が先生で、#11辰巳緒花がその教え子。橋田選手は学校で指導者でありながら、ここでは選手でもあるんです。それからキャプテンの#13池田智美と橋田選手は、もともと同じミニバスのチームに所属していて、池田選手が先輩なんです。さらに池田選手は、谷オーナーと同級生。Wリーグでもプレーした経験豊富な池田選手の加入は、谷オーナーの存在が大きかったですね」

#13 池田智美 選手(キャプテン)
#11 辰巳緒花 選手(U24)

プロスポーツチームが存在しなかった能登にECHAKE-NA NOTO.EXEが誕生したことは、地元で反響を呼んだ。それに力を発揮したのが、広報も兼ねる平内氏。3x3.EXE PREMIERの開幕前から地元の放送局や新聞社に積極的にアプローチし、いずれも協力を得られて数々のメディア露出を果たしている。

「谷オーナーとチームを設立するのが決まってから徐々に動き出し、3x3.EXE PREMIERの参戦内定が出て以降は月に1回はどこかのメディアに出ることを続けています。谷オーナーがチームを作った思いを正しく伝えることはもちろん、谷オーナーと池田選手の関係性だったり、先生と生徒が同じチームいることも、トピックスとしてメディアさんの心を動かしたのかなと思っています。地震と豪雨で能登に注目が集まっていたこともあって、メディアさんの側から追いかけさせて欲しいとの連絡もいただいています」(平内GM)

石川県 馳浩知事 表敬訪問の様子
NHK石川(https://www3.nhk.or.jp/lnews/kanazawa/20250114/3020022884.html)

もちろん地元の自治体とも連携を図り、石川県が主催するイベントに招かれるなど良好な関係を築いている。そうして準備期間が瞬く間に過ぎ、4月26日に宇都宮で行われる開幕の日を迎えることになった。

能登の歴史/文化/魂を意味する3つのラインと日本海の波を表現したユニフォームを着用

「僕は開幕の前日は、ずっとソワソワしていました。自分がプレーするわけでもないのに(笑)。練習試合の結果が悪くなかったから全然ダメじゃないだろうけど、必ず勝てると確信が持てるほどの自信はありませんでしたし。本当に、どうなるんだろうという感じでしたね」(谷オーナー)

「私も楽しみ半分、緊張が半分でしたね。でも明日は勝っても負けても、一生忘れない1日になるだろうなと思っていました。なんだかいろんな感情が湧いてきて、夜の11時と遅い時間なのに、メディアさんやスポンサー企業さんに開幕を迎えられることに対する感謝のメールを送ったりしていました(笑)」(平内GM)

ECHAKE-NA NOTO.EXEは初陣こそ敗れたものの、次のゲームで早くも初勝利をあげた。試合は接戦が続いたが、終盤にあげた連続5ポイントが効いて白星をもぎ取る。2度の大きな災害に見舞われながらも、能登のためにとチーム設立に奮闘した谷オーナーと平内GMの胸に、初勝利の瞬間に特別な感情が湧き上がった。

#21 浅間美紀 選手(U24)
#32 町谷愛海 選手(U24)​

「終盤に池田が2ポイントを決めて、残り時間を考えるとこれでいけるだろうと思いました。それで試合終了のブザーが鳴った瞬間に、これまでのことが頭のなかを駆け巡ったんです。子どものころから感情を表に出すほうではなかったのですが、あのときばかりはいろんなことを思い出して泣けてきましたね」(谷オーナー)

「1試合目に負けたあとに、『悔しい』という言葉が彼女たちから出てきていたんです。なんとしても白星を獲りたい思いがすごく伝わっていて、それを2試合目で表現してくれたことには、とても感動しました」(平内GM)

彼女たちがあげた初勝利に、地元や支援者からすぐに反響があった。

「地元の方やクラウドファンディングで協賛してくれた人たちから、試合中に『配信で観てるよ』などとメッセージが来ていて、勝ったあともたくさんの連絡をいただきました。配信を見てSNSで連絡してきてくれて、本当に応援してくれているんだなと実感しました。サポートしてくれる人たちとの、つながりを感じられましたね。『試合に勝って、メッセージがたくさん来たよ』って池田に話したら、彼女は『でも、予選敗退だから』と浮かれていませんでした(笑)」(谷オーナー)

能登と共に、復興に向けて歩んでいく。ECHAKE-NA NOTO.EXEは、その一歩を踏み出したばかり。能登とチームのこれからに向けて、谷オーナーは決意を新たにする。

開幕戦で初勝利を上げたECHAKE-NA NOTO.EXE

「もちろんプロなので、チームは結果を残さないといけない。だから優勝を目指して、選手には頑張ってほしいです。それと能登のことを発信していくのは、我々にとってとても大事なこと。そのための活動も、続けていきたいです。能登は被災した建物の解体が、まだ6~7割くらいしか進んでいないといわれています。チームは勝ち続けることで、注目を浴びるのだと思います。それでメディアに出たりSNSでの発信力をつけていって、ずっと能登のことを忘れられないようにしていく。そうして地元の人からも県外の人からも、リアクションしていただけるくらい知名度を上げていきたいです」

ECHAKE-NAは「えちゃけーな」と読む。これは能登の方言で「かわいらしい」という意味。その名のとおり能登の人々に愛され、災害から立ち上がる能登半島の新たな歴史を地元の人々と築くべく、ECHAKE-NA NOTO.EXEは歩み続ける。

(Text by カワサキマサシ)

TEAM information

Team:ECHAKE-NA NOTO.EXE
(エチャケーナ ノト エグゼ)
Category:WOMEN
Hometown:石川県能登地方
Since:2025